──アニメ『響け!ユーフォニアム』(以下『ユーフォ』)シリーズとしては4年ぶりの新作です。『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』(以下『アンコン編』)の制作が進んでいますが、いかがですか?
石原久しぶりに『ユーフォ』を作ってみて……やっぱり「面倒!」です(笑)。
小川(笑)。僕は楽器の作画など大変だなというところもあるんですが、ドラマとしてどう見せるかが改めて難しい作品だなと思いました。当初『アンコン編』はOVAの企画として始まっていたんです。それもあって、“久美子3年生編”(2024年放送予定)へつないでいくという意味も含めた『アンコン編』がどうあるべきか、というのは考えましたね。
──もともとOVA企画だったんですね。
石原“久美子3年生編”の2024年放送は結構先で、ファンの皆さまをお待たせしてしまうので、それまでの間に何か出したいなという話があったんです。そこで、『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』(以下『誓いのフィナーレ』)で描いていない2年生後半のお話で、原作にもある久美子部長の初仕事になるアンサンブルコンテストのエピソードを独立して出していくのが良いのではないか、ということで決まりました。ですので、構成としてはTVシリーズの延長のような作りになっています。その後、劇場で上映できることになったので、スクリーンでの見え方は意識して作っています。実は、作画枚数も結構使っちゃいました(笑)。劇場版のような派手な見栄えではないかもしれませんが、ささやかな日常を描く一本としてじっくりお楽しみいただけるかと思います。
──「久美子3年生編」へのつながり、というお話がありましたが、『アンコン編』はシリーズにおいてどのような役割を担っているのでしょうか。
小川 久美子の部長としての「序章」っていうのは大きなものの一つだと思います。TVシリーズ1期は吹奏楽部の活動そのものを描いて、2期では人間関係にフォーカスしてきました。では“久美子3年生編”の面白いところは何だろうかと考えたときに、一番大きなところは部長になった久美子が将来どうなっていくのか、というところだと思ったんです。この『アンコン編』は“久美子3年生編”までつながっていく、部長としての「序章」のような立ち位置にできればと思っています。
──『アンコン編』ではどういったところを意識されましたか?
小川『アンコン編』に限らずですが、『響け!ユーフォニアム』という作品そのものや、吹奏楽に向き合うというところでいうと、「生っぽい」というか、それこそ「リアルな」や「等身大の」というキーワードが出てくると思います。そこをどう描くかというのと同時にアニメとしてエンターテインメントに落とし込むバランスを改めて意識しました。
石原確かに『ユーフォ』をやってからかな、「本物っぽさ」をアニメで追及していくと、そのあたりは考えることがありますよ。楽器などはかなりリアルに描こうとしていたり……。
小川反対に「見せ場ですよ!」っていうシーンで過剰演出になってしまうことがあったりするので、とても難しいです。
石原あるある、そういう経験。派手なシーンがあれば物語が成立するかというとそうではなくて、派手なシーンがなかったとしてもキャラクターの気持ちが解決すれば物語は成立することもあるんだよね。
小川逆に過剰演出になってリアリティーとかけ離れていってしまっても、やらないよりやって後悔したほうがいいと思って、結果それが良かったってことも本当によくあるので……なんだか常にそういうものと戦っているなぁと改めて感じます。
石原あとは、演出的なところではないですが、部活を引退した先輩たちも出てきたりしていますので、楽しんでいただけるのではないでしょうか。
──『ユーフォ』の映像制作は約4年ぶりですが、スタッフの皆さんの様子はいかがですか?
小川学生の頃に『ユーフォ』を見ていた人が京都アニメーションへ入社してきて、好きだと言ってくれることが多いんです。いいものにしようという気持ちが伝わってきます。
石原『ユーフォ』に携わったことがない新しいスタッフが多いので、どうなるかな?と思った部分もあるけれど、しっかり『ユーフォ』としていつも通り描けていてうれしくなりました。楽器の作画も久しぶりだったけど、例えばマリンバの演奏カットの動きもとても良くて、まるでロトスコープ(実写映像をトレースして描く作画技法)で作っているかのような出来栄えなんです。でも実際は、トレースはせずに参考映像を見て描いているんだよね。
小川いやもう、スタッフの皆さん、本当にがんばってくださっています。楽器は、以前は3DCGで出力しても、そこへ質感を足すレタッチ作業が必要で結構大変だったんです。あれからまた3Dスタッフ、撮影スタッフともにより進化して、さらに工夫が凝らされています。シリーズとしての回数を重ねてきているので、作画と3DCGそれぞれのいいところをスタッフの皆さんが理解し合っているが大きいかなと思います。この先、新しい進化を“久美子3年生編”に向けてもしていきたいですね。
──楽器のお話がありました。音楽関連ですと、予告で使用されている「オーメンズ・オブ・ラブ」が話題になっていますね。
小川「オーメンズ・オブ・ラブ」は『アンコン編』で流れる箇所があります。『アンコン編』の半パートは僕が絵コンテを担当しましたが、最初は楽曲を使用する予定はなかったんです。でも、劇場で上映することになり、印象的にしたかった箇所があったので、楽曲を使用することにしました。そこで吹奏楽経験者のスタッフ何人かにどのような曲が良いか尋ねたところ、「オーメンズ・オブ・ラブ」と返ってくることが多かったんです。僕もいろんなところで聞いたことがある曲でしたし、すごくしっくりきて。聞けば聞くほどいい曲だなって思って力が入ってしまいました(笑)。
──吹奏楽曲の収録はいかがでしたか?
石原演奏メンバー自体は1期のころと変わっていますが、変わらず『ユーフォ』を感じられる現場でした。小川くんは初めての参加だったけど、どうだった?
小川感動しました。定期演奏会に招待いただいたことがあるので生演奏は聴いたことがあって、もちろんそこでも感動しましたけど、今回はより間近で聴いたこともあり、もっとリアルな感じがしたというか……臨場感がすごかったですね。一つのアニメ作品のためにたくさんの人が集まって、しかも作品が好きだと言ってくださる方がたくさんいらっしゃいました。「オーメンズ・オブ・ラブ」もショートバージョンにしてもらっているのですが、その切り方一つにしても大和田先生や楽団の皆さんが“クリエイター”として、前向きにいろいろな案を出してくださって感動しましたね。
──チームで作っている感じがします。
小川自分にない知識が本当にたくさんあるんだなっていうのを実感しました。収録現場で学んだこともありつつ、かといって全て網羅できるわけでもないので、だからこそ、みんなで作っているんだなというのを実感しましたね。石原さんはどうですか? 収録には何度も参加されていますが。
石原間近で演奏を聴けるのはやっぱり面白いですね。僕は自分の仕事場もそうですが、工房とか、モノづくりの現場というのが好きなんです。そしてこの録音スタジオもまさに「作っている現場」という感じがあって、とても居心地が良かったです。
小川あと僕は、いいものはいいなっていうのをすごく体感できた気がします。聴いていていいなと思ったテイクは他の皆さんもそう感じていることが多かったんです。それこそ専門知識とか関係なく。音楽の面白いところだなって感じましたね。一つの共通言語だなと思いました。
──新しく参加されるキャストや、そもそも『ユーフォ』としてのアフレコも数年ぶりです。アフレコで何か印象的な出来事はありましたか?
石原エンターテインメントとリアルについての話を冒頭にしましたが、僕自身の演出もTVシリーズ1期のころから変わってきているんです。1期の頃はアニメ的なコミカルな表現も多かったんですが、徐々にそういうのがなくなってきているんですね。キャストさんの芝居もアニメらしさからリアル寄りに変わってきているように思います。
小川音響監督の鶴岡(陽太)さんがとても強い思いで芝居をディレクションしてくださっているところが大きいなっていうのは感じましたね。『アンコン編』のアフレコで鶴岡さんがキャストの皆さんに「再スタートぐらいの勢いで。今までのやつを全て壊すぐらいの気持ちで」っておっしゃっていたんですよね。鶴岡さんなりの一つの覚悟をすごく感じました。そもそも壊しても壊れるようなものじゃないというのが大前提にあった上で、キャストさん一人ひとりがどういう気持ちで新しくスタートを切れるか、ということだと受け取りました。「やっぱり成長していかないといけないよね」ともお話しされていて、それを受けてキャストの皆さんが演じられるキャラクターが少し成長したように感じましたね。
小川あとアフレコで印象的だったのが、久美子に関してですね。今までは他のキャラクターに問題が起きてそれを久美子が見ているという構図だったのですが、「久美子3年生編」に向けて久美子を描いていくということになった。鶴岡さんは久美子役の黒沢(ともよ)さんに「ようやく黄前久美子の物語が表現できるな」といったニュアンスのお話をされていました。また、「今までのものを享受しよう」ともお話しされていて、なるほどと思いました。「つないで」いこうではなくて、「享受」することによってまた新たなものに進化していくということなのかと。「黄前久美子の物語」を描く、というのはシナリオの打ち合わせなどで僕たち自身が考えてきたことではありますが、作業が進んでいくにつれて、そのテーマが当たり前になりすぎて逆に見えなくなってしまうこともあるんですよね。それを鶴岡さんのディレクションを聞きながら、分かっていても改めて意識を引き締められて、本当にありがたいなと感じるのと同時に、鶴岡さんの目はごまかせないなとプレッシャーを感じていました(笑)。
──ファンの皆さまへメッセージをお願いいたします。
小川新しい楽曲も登場しますので、そのあたりも見どころ、聴きどころだと思います。劇場の音響設備で聴く魅力が間違いなくあると思うので、楽しみにしていただければと思います。僕も楽しみです! ぜひ劇場へ足を運んでいただければうれしいです。
石原“久美子3年生編”に向けての再スタートだと思っています。何事もそうですが、「これから!」と踏み出す直前ってすごく楽しいですよね。そういったことを感じられる作品になっているのではと思います。これからの久美子が垣間見えるかと思いますので、楽しみにしていてください。